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高校家庭科で学び直し: 資産運用、労働、社会制度

January 14, 2023

先日、高校の家庭科の教科書を買った。 その記事にも書いたが、自分が高校卒業後、一人暮らしを始めたりお金を稼いだりといったタイミングで都度調べて学び、学校で教えておいてくれよと思ったような事柄が、実は今は高校の家庭科で教えられているらしいと伝え聞いたからだ。それらについて実際にいくつか見てみる。

ところで、上記記事を書いた後、もう一度教科書販売店に行って以下の2冊を買い足した。 立ち読み時にいいなと思った記述が、一度目に買って帰った教科書をパラパラ見ていたら含まれていないことに気づいたので。

newly bought books

結局、家庭総合の教科書は全出版社分を揃えてしまった(たぶん)。

all home economics textbooks

資産運用・パーソナルファイナンスについて

初めてまとまったお金を稼いだとき、これをどうにかうまく使えないかという発想になった。色々調べてどこかのブログでインデックス投資のことを知り、そのブログでおすすめされた通り、ウォール街のランダムウォーカーを読んで12、実際に投資を始めた。

それが2016年ごろだったと記憶している。今でこそ金融教育は広く話題に上がるが、当時は各人が勝手に興味を持って、勝手に本で勉強する感じだったと思う。 それから積立NISAが始まったり、確定拠出年金にiDeCoなんて名前がついたり、老後2000万円問題なんかもあって、資産運用への関心が高まり、そのための知識がより一般に求められるような空気に変わってきた。 実際に学校で教えているのだろうか。教科書を見てみよう。

ところで、上述の通り私の手元には5冊(家庭基礎も含めれば7冊)の教科書があるが、全てを網羅して記載するのは大変なので一部だけを載せる。

この分野に関して一番情報量が多いのは大修館書店の「Creative Living『家庭総合』で生活をつくろう」だと感じた。以降の章でも、基本的にこの大修館書店の教科書を参照していく。

Creative Living『家庭総合』で生活をつくろう(大修館書店)

個人的には高校の教科書に金融商品のリスク・リターンの関係の図が載っているだけで割と感動ものだった3。ちなみに他社の教科書にはこれはない。

金融商品のリスク・リターン(大修館書店)

上記の図を含め、資産運用に関する記述は、経済計画とリスク管理に関する見開き1ページの中の一部分だけだった。家庭科という教科の守備範囲の広さを考えればこの1テーマに使える分量はこんなもんかという気もする。 また当然ながら具体的な運用戦略に触れる記述はなかった。

経済計画とリスク管理

リスクを考慮して適切な金融商品を選ぶことが大事であると教科書に書かれているのは、金融リテラシーを教育しようという気持ちを感じてポジティブだ。

ちなみに、同程度の記述は他社の教科書にもある。例えば第一学習社の教科書には以下のようにまとまっている。

金融商品の選び方(第一学習社)

また、教育図書は以下のようなコラムを用意しており、日本は海外に比べて投資意欲が低いみたいな内容を載せている4 家計の金融資産(教育図書)

金を稼ぐことと、納税や社会制度について

学生時代は仕送りで生活費を賄いつつ、学部くらいまでは遊ぶための金をバイトで稼いで、どこからか聞こえてくる「年103万を超えて稼ぐな」というアドバイスに盲目的に従っていた。 その後IPA未踏に採択されたときに、個人事業主になった。未踏の支援金はIPAから個人への委託事業に対する対価として支払われるので、個人事業主になって事業所得にするといいよというアドバイスが未踏のガイダンスや飲み会なんかで聞こえてくる。また当時の支援金は230万円で、103万を超える。さらに同時期に、プログラミングの仕事で103万を超えてまとまった受注があったりしたこともあり、確定申告というものに向き合うことになった。

初めての確定申告では、記入欄が何十もある表を含む、大量の記入用紙を見て頭がフリーズしたのを覚えている。付属の書き方マニュアルを見ても、何が分からないかが分からない(「所得」とは何か、みたいな知識が前提で書いてあったと思う)。確定申告SaaSも試したがわけがわからない5。どうしていいか分からずとりあえず簿記3級を勉強したら書き方マニュアル等が読めるようになりなんとかなった67

そんなことがあり、こういう知識って、さわりだけでも学校で教えるわけにはいかないのかな、でも大多数が確定申告するわけじゃないから難しいのかな、などと思っていた。

今回やっと家庭科の教科書で学び直す機会を得たわけだが、 結局、確定申告や納税に関する記述は見つけられなかった(索引で「確定申告」「税」「納税」などを引いてみた)。 一応「社会保障」に関する説明は以下にあったが、欲している観点からの説明ではない。

社会保障と地域福祉(大修館書店)

ちなみに教育図書や第一学習社の教科書には、より関連がありそうな知識として以下の図表が載っていた。 上述したような実際の手続きに役立つものではないが、社会の仕組みを概観するような土台の知識としては知っておくと良いものではある。

税金・社会保障の種類(教育図書) 生活上のリスクと社会保障制度(第一学習社)

上述の通り学生時代に個人事業主になり、その後は企業に雇用されるのだが、企業で働いているときも個人事業主としての収入はあったので、確定申告はしていた。 今でこそ副業ブームで情報はたくさんあるだろうが、当時は給与所得と事業所得の両方がある場合の確定申告書の書き方の解説がとても少なかった。 それに、どうやら自分の給料のうちいくらかは勝手に会社が国に社会保険料として払っているらしい。これは確定申告書にどう書けばいいんだ?みたいな疑問が無限に湧いてきて、会社勤め1年目の確定申告もまた大変だった記憶がある。

この辺りも、「収入」「所得」「給与とは」「天引きが何をしているか」「控除とは何か」「何が控除になるのか」みたいな基礎的な知識がしっかりあれば、演繹的に導けたのだろうか。それらの知識は学校で教えてくれないのだろうか。

索引で「収入」を引くと以下のページがヒットした。家計を含む経済の仕組みについての解説で、税法上の云々ではなかった。 家計の構造と社会(大修館書店)

また、給与明細や源泉徴収票にも触れてあったが、詳しい記載はなく役に立たなそうである。 給与明細を見てみよう(大修館書店) 源泉徴収票の例(大修館書店)

金を稼ぐことについては家計の文脈でのみ触れており、納税に関する記述は一切なく、この分野に関しては期待外れであった。

ちなみに、「給与明細を見てみよう」的なコーナーは全ての教科書にあった。例えば以下は東京書籍。 収入について(東京書籍)

年金や保険について

学生の頃は親から「あんたはうちの扶養に入ってるからこの保険証ね」「今はあんたの年金は代わりに納めてあげてるけど、社会に出たら自分で納めるんだよ」とか言われていた。 いざ扶養から外れて(「扶養から外れる」も最初はよく分からなかったけど)調べてみると、「国民年金」「厚生年金」「国民健康保険」みたいな用語が見つかる。親との会話で使っていた語彙と微妙に違って、どれがなんなのかよく分からなかった。

例えば索引で「年金」を引くと、以下のページが当たるが、これは高齢期の生活に関する章であって、年金を納める話ではない。 高齢者福祉の考え方(大修館書店)

一方、第一学習社の教科書には、経済に関する章で以下の記述がある(これは索引から「年金」で引けなかったが)。 とはいえ、申し訳程度に図を載せているだけで詳細な言及があるわけではない。 人生とお金(第一学習社) 年金制度の体系(第一学習社)

結局、これも当時抱いていた疑問に家庭科が答えてくれるかというと否であろう。

労働にまつわる法制度、社会保障について

会社勤め時代の初期は、わりと大学の研究室気分が抜けないチームにいて、自分自身もその雰囲気は嫌いではなく、変な深夜労働・休日出勤をそこそこしていた8。 ただなぜかそれらをちゃんと申請して深夜・休日割増分をちゃんと貰い給与明細で確認し、平日に振替休日を取得するくらいの知恵はあった(会社からもその辺はちゃんとやれと言われていた)。

一方で、後から振り返ると、学生時代のアルバイトでは、厳密に労働基準法に照らせば違法なんじゃないかというものもいくつかあったし(例えば「タイムカードは1分刻みで打刻しないと違法」)、「アルバイトでも(労働時間、日数によっては)有給休暇を取れる」みたいな、法律と正当な権利を主張して自分の利益を確保するための知識みたいなものって、学校で教えておいてほしいなぁと思った記憶がある。

索引から「労働」から始まる語句を引いてみる。 索引の「ろ」 以下が各ページの内容。P114が、「雇用先によって労働条件が変わるのでいいところを選ぼう」という内容で、求めている内容に比較的近そうだが、やはり違う。 意外なのが、P68の「労働基準法」は子育て支援の文脈で登場していること。

  • P32の「労働」: 労働(大修館書店)
  • P68の「労働基準法」: 労働基準法(大修館書店)
  • P114の「労働条件」: 労働条件(大修館書店)

これも、求めているものそのものは載っていなかった。

総説

総じて、本稿に書いたような自分が探したかった知識は、「軽く触れられてはいるが実際の役に立てるのは難しい程度の少なさ」だったり、もしくは全く触れられていないかだった。

さらに、教科書で軽く触れているからといって、実際に授業で扱って生徒の身になるかというとまたそれも別問題だろう。 やはり教科書の大部分は、いわゆる家庭科と聞いて想像するような内容で占められており、本稿で取り上げたような内容がどの程度の重要度でもって教えられるかは気になるところではある。

家庭科の守備範囲は以下のように幅広く、 本稿でこれまで触れてきた内容はほとんど第8章(経済生活について)の、それもごく一部であった。 また第8章の中でも、消費生活におけるより基本的なこと(消費者金融などに関する注意や売買契約など)にも優先して紙面を割く必要があるので、本稿で探したような内容は薄くなってしまうのはしょうがないのかもしれない。

教科書の構成(大修館書店) Creative Living『家庭総合』で生活をつくろう(大修館書店)の構成

そのほかの分野について

さて、本稿では今の私が興味のない部分は無視してきたが、以下に軽く触れておく。

  • 教科書の前半はだいたい人の一生の流れに沿って、子供から老人までの生活にまつわるあれこれが書いてある。
    • 正直31歳で子供がいない自分には興味がない。子供が生まれたり、自分が老人になったりしたら興味が出るのかもしれない。そういう意味でも、家庭科の教科書は一生モノかもしれない。
  • 食事や服に関する章は、一人暮らしを始めた当時に目を通しておけばよかったとは思っているし、今でもたまに参照すると良さそうである。家庭科教科書を生活マニュアルとして見たときによくできているなと感心するポイントではある。
    • 例えば布の縫い方やボタンの付け方、洗濯マークの見方など。Webで調べれば出るっちゃ出るが、どこかの組織や個人がまとめた情報より、国の検定に通った情報が1冊にまとまって閲覧できるのは良いことだろう。
  • 住居の章は、自分で家を買うときには自分ごと化するだろうが、今興味があるわけではない。

  1. 当時は11版だったが、今は日本語版は12版が最新ぽい。もちろんそっちも買った
  2. その後インデックス投資に関しては敗者のゲーム投資の大原則を読んだ。今から人におすすめするなら投資の大原則。ウォール街のランダムウォーカーと敗者のゲームの両著者の共著で、短くまとまっていて読みやすい。また他の投資戦略に関する本もある程度読んだが、本題ではないのでここでは省略。
  3. なぜリスクとリターンが比例するのかについては、現代ポートフォリオ理論とかを調べてみよう
  4. こういう記事、数年前に週刊ダイヤモンドとかでよく見たな
  5. 少なくとも当時は、簡単入力を謳うfreeeは自分のケースではどう入力していいかわからなかった。MF確定申告が良さそうだったが、仕訳の入力がわからず、簿記の勉強につながる。
  6. 実際に日商簿記3級の参考書で勉強した。勉強だけだともったいないので結局資格も取った。試験会場は高校生に囲まれて浮くかなと思ったら割とそんなことはなくて安心した思い出。
  7. 振り返ってみれば、確定申告には簿記3級の参考書の前半だけで事足りたと思う。
  8. その会社の名誉のために付言すると、それらは全く推奨、強制されたものではなく、割と楽しんでやっていたところもある。一方で、ビジネスの立ち上げフェーズだったという環境要因も確かにある。

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